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北海道百年記念塔解体差止め訴訟一審二審の概要

《請求の概要》
・ 事件番号 令和4年(行ウ)第35号 建物解体等差止め請求事件
・ 当事者 原告:北海道の住民(87名) 被告:北海道
・ 請求趣旨
1 被告は別紙物件目録記載の建物(北海道百年記念塔)を解体撤去してはならない。
2 被告は別紙物件目録記載の建物を解体撤去の工事に関する請負代金を支出してはならない。
3 訴訟費用は被告の負担とする。

 

《1》札幌地方裁判所

 

【Ⅰ】訴状(令和4年10月3日)


① 被告は、記念塔を常に良好の状態に管理し、所有の目的に応じて最も効率的に、これを運用しなければならない義務を負っている(地財法8条)。
② 北海道文化振興条例により、被告が常に良好の状態に記念塔を管理し、最も効率的に運用しなければならい義務がより強固に具体的に課されるに至った。
③ 被告は、記念塔の建立の趣旨を軽視し、平成24年(2012年)から保守管理を懈怠し、既成事実を作ろうとしたためか老朽化するに任せ、解体を決定し、実施してもいない平成24年以降の保守管理計画が実施されたかのように誤認される誤った資料を議会に提出して、議会の承認を得た。
④ 被告において地財法8条及び北海道文化振興条例3、5及び6条に基づく善管注意義務注意義務に違反したことは明らかである。
⑤ 本件訴訟は、記念塔の解体及び解体費用の支出の差止を求めるものであり、被告の法律上の処分または裁決ないしは権力的事実行為に含まれることは明らかでる。
⑥ 記念塔はまさに解体されようとし、そのための費用が支出されようにしていることからして処分の蓋然性が存在することは明らかである。
⑦ 本件記念塔の解体によって資産的、文化的かつ精神的な重大な損害が生ずることは明白である。容易に再建をすることは不可能であり、損害を回復することは極めて困難である。
⑧ 法律上の利益の判断については、処分または裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮すべき行訴法9条2項が準用されている。
⑨ 原告らは、北海道の住民であるから、本件記念塔を維持発展させ解体をさせない法律上の利益を有することは明らかである。
 


【Ⅱ】被告答弁書(令和4年11月14日)


① 行訴法37条4「差止め」は、行政庁の行為に「処分性」のあることが訴訟要件である。
② 「処分」とは、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものである(最判S39・10)。
③ 記念塔解体は、第三者の権利または義務に変動をもたらすものではない。記念塔解体は行訴法37条の「処分」に当たらず、訴訟要件を欠く。
④ 「法律上の利益」を有する者とは、処分により自己の法律上保護された権利や利益を侵害され、または必然的に侵害されるおそれのある者をいう(最判H17・12)
⑤ 処分を定めた行政法規が、個々人の個別的利益としてこれを保護すべきとする趣旨を含まない場合には、法律上の利益があるとはいえない。
⑥ 地財法8条は地方公共団体が負うべき財産管理上の基本原則を明らかにした規定で、個々人の個別的利益を保護すべき義務を負わせる趣旨とは解せられない。
⑦ 地財法が根拠法令となり得ない以上、北海道文化振興条例も対象にはなり得ない。
⑧ 原告らの主張は、北海道の住民であることのみをもって、差止めを求めるに等しく、かかる主張に理由がない。
 

 
【Ⅲ】原告第1準備書面(令和4年12月21日)・第2準備書面(令和5年1月17日)


① 「処分性」と「法律上の利益」は、相互に定義し合う循環論的関係にあり、独立の要件とは言いがたい。
② 直接の名宛人でない者の原告適格については、一般的には第三者の原告適格として論じられている。
③ 行訴法9条2項は、「法律上の利益」及び「処分」については、行政の処分等の対象以外の第三者についても観念しうるとしている。
④ 第三者の原告適格は、最高裁の判例の蓄積によれば、結局のところ、行政庁の行為の根拠となった行政法規が、一般的公益を保護する規制か、同時に個別的利益をも保護する規制なのかという問題に帰着する。
⑤ 平成16年の行訴法改正の基盤となった司法改革は、司法の行政に対するチェック機能の強化、かつ国民の司法参加、すなわち司法の民主化を強く指向している。
⑥ 平成16年の改正行訴法で講じられた、国民の権利利益の規定、義務付け訴訟、差止訴訟の法定は、司法民主化の観点から解釈運用されていかなければならない。
⑦ 最高裁は、H16行訴法改正前においてすら「法律上の利益」について判断基準を広げ、さらに被害利益の性質及び程度等をも考慮して判断するという方向へ舵を切った。
⑧ H16改正後は侵害される住民の利益の内容・性質・被害の態様・事後救済・被害の軽減措置等まで勘案して「原告適格」を認める手法をとるに至った。
⑨ 国立マンション訴訟(最判H18・3)で景観利益が法律上保護に値するものであると認めた。
⑩ 鞆の浦訴訟(広島地判H21・10)で地域住民に「法律上の利益」を認めた。
⑪ 被告の判例理解は最高裁の判例の蓄積を全く無視するものである。
⑫ 記念塔は歴史的文化的に特別の意味を有する「公有財産」であり、「公の施設」である。
⑬ 「公の施設」に第三者保護につながる手続的規定(同法244条4)をも勘案すると、被告の行為の根拠関連法令は、一般的公益の中に吸収解消するにとどめず、個別的利益としても保護する趣旨を含むと解される。
⑭ 「公有財産」「公の施設」である記念塔の利益は、一般的公益に吸収解消させることは困難で、北海道の住民は記念塔の解体について行訴法上の「法律の利益」を有する。
 

【Ⅳ】被告準備書面(令和5年1月18日)


① 「処分性」と「法律上の利益」は相互に関連を有するとしても独立の訴訟要件で、「処分」の存在は「法律上の利益」の判断の前提問題である。
② 記念塔の解体は、被告が工事請負業者と締結した請負契約に基づいてなされる事実行為にすぎず、権力的行為と評される余地はない。
③ 公有財産の売却が処分性が認められないことは確立した判例法理である(最判S35・7等)
④ 最高裁昭和39年判決は確立された判例法理で、後の判決によって変更された事実はない。
⑤ 記念塔の解体は、道民の生命、身体、財産、権利、利益の侵害の発生、個別の道民の生命、身体、財産等の侵害について受忍を義務づけるものともいえない。公権力の行使に当たる行為であるとする余地はない。
⑥ 抗告訴訟は、自己の法律上の利益にかかわる資格で提起される主観訴訟であるから、訴訟要件は、原告ら一人ひとりについて明らかにされなければならない。
⑦ 原告らの主張を見ても抽象的な集団的利益と一線を画する原告ら一人ひとりの個別的利益が何ら明らかにされたとはいえない。
 

【Ⅴ】原告第3準備書面(令和5年1月23日)


① 行訴法上の「処分」は、住民の権利・利益を左右しうるものだから、「処分性」の判断は、論理的必然的に国民等の権利や利益を前提にしなければならない。
② 集団的利益と個別的利益は共存しうるものである。
③ 鞘の浦訴訟で広島地裁も景観利益を享受している多数の住民に広く原告適格を認めた。
④ 景観という構成要素を確定することが困難なものでさえ法律上の保護の対象と認められている。ましてや記念塔は固有性及び特定性を景観以上に有する。
⑤ 法律上の利益が多数の住民に認められるにしたがい個々の利益が希釈化されるが、「処分」による「法律上の利益」の損害の重大性、回復の不可逆性を加味することにより、客観訴訟化を十分に防止しうる。
 

【Ⅵ】札幌地裁判決理由(令和5年3月28日)


① 処分については、直接国民の権利義務を形成し、またはその範囲を確定することが法律上認められているものをいうと解するのが相当。
② 記念塔の解体は、被告の間で締結された請負契約に基づいて工事請負業者が実施する事実行為にすぎない。
③ 行為自体が、原告らに行動を義務付けたり、法律上の権利義務を形成したりするものでないし、法律効果を生じさせる法令上の規定も見当たらない。
④ 解体により記念塔を利用等することができなくなるのは、不特定多数者に対する一般的抽象的な事実上の影響にすぎない。
⑤ 記念塔を通じて醸成された価値が損なわれるとしても解体よって生じる反射的、間接的な影響である。
⑥ したがって、記念塔の解体及びそのための費用の支出に処分性を認めることはできない。その余の点について判断するまでもなく、不適法である。
 
 

《2》札幌高等裁判所

 

【Ⅰ】控訴理由書(令和5年5月30)


① 記念塔の存在意義を一顧だにせずに門前払いした原判決は、平成16年改正の公益的意義及び地方自治法及び地財法の地方自治の趣旨に反する。
② 原判決は、憲法が規定する国民の裁判を受ける権利を明らかに侵害している。
③ 訴訟要件(原告適格)の有無の判断においても本案要件(行政庁の行為の違法性)を全く無視して判断することはできない。
④ 解体の不利益を一般的抽象的な影響としたことは、一方的で偏向した認定である。
⑤ 原審は、本件に関する公益的意義についての認識が希薄、当初から結論ありきの態度であった。
⑥ 解体工事という事実行為は、現実に解体する結果をもたらすのだから、法律上の利益の範囲を確定する処分である。
⑦ 「事実行為」であるからといって、それだけで処分性が全て否定されるわけではないから、原判決は最高裁の判例に反する。
⑧ 原判決は、「公の施設」であるとの主張については何ら応答も認定もしていない。
⑨ 記念塔の半径5km以内に居住している控訴人は利益状況を大きく異にしている。不特定多数者に対する一般的抽象的な事実は圏内控訴人にあてはまらない。
⑩ 鞆の浦景観訴訟でその恵沢を日常的に享受している者の景観利益は、私法上の法律関係において、法律上保護に値するとした。
⑪ 圏内控訴人がその恵沢を日常的に享受している記念塔が存在する景観利益は、私法上の法律関係において、法律上保護に値する。
 

【Ⅱ】被告答弁書(令和5年7月25日)


① 地方自治法の財産に関する諸規定について、住民自治の観点から規律した準則はない。趣旨は公の施設の適正な利用を確保することである。
② 原告の挙げた判例事例は、特定の名宛人に対して通知または勧告をした事案に関するもので、本件とは事情を全く異にする。
③ 解体は、被告と工事請負業者との間で締結された請負契約に基づいて工事請負業者が実施する事実行為にすぎない。
④ 「記念塔を眺望」「訪れる」利益は原判決のいう「不特定多数者に対する一般的抽象的な事実上の影響」にほかならない。
⑤ 「景観利益」については、公序良俗に違反するなど、社会的に容認された行為としての相当性を欠く侵害行為が行われたことを要する。
⑥ 眺望できなくなるとしても、事実行為の影響。利益または義務の範囲を形成し、またはその範囲を確定させるものとはいえない。
⑦ 地方自治法上の公の施設であるとして法律上の利益に関して縷々主張するが、処分を前提とした法律上の利益について検討するまでもない。
 

【Ⅲ】原告第5準備書面(令和5年09月14日)


① 地方自治法そのものが憲法が定める住民自治を含む地方自治の本旨に基づき、地方公共団体における民主的な行政の確保を図ることを目的としている。
② 「公の施設の適正」な利用の「適正」の判断基準が住民自治を含む地方自治の本旨にあることは憲法及び地方自治法の目的から自明である。
③ 被控訴人の主張は、地方公共団体の住民のための財産、とりわけ「公の施設」に関する住民自治を全く無視するものである。
④ 住民自治の無視に、捏造された根拠に基づき記念塔の解体を強行した被控訴人の行為の根本的な原因及び問題点が存在する。
⑤ 事実行為についても「処分性」を認めた最高裁の判例について「本件とは事情を全く異にする」ことの理由は単なる循環論法で、結局何ら示されていない。
⑥ 並行審理されてきた仮の差止訴訟の抗告審決定では「事実行為でも処分性が認められる場合がある」としている。
⑦ 抗告審の決定も「処分性」について、事実行為のうちでも即時強制に類するものに限定している点において誤りである。
⑧ 最高裁判例は、即時強制に限らず単なる行政庁の事実行為についても「処分性」を認めている。
⑨ 「事実行為」は行政訴訟法上の定義のない文言。内容を厳密に検討することなしに「事実行為だから処分性はない」は、理由を示したことにならない。
⑩ 最高裁の判例における「処分性」の拡張的解釈の傾向は一貫している。本件抗告審決定はこのような最高裁の判例の「処分性」に関する拡張的傾向を全く無視した。
⑪ 処分性はないとして抗告人ら請求を門前払いをした本件抗告審決定は、本案裁判を受ける権利を不当に侵害しており、憲法32条に違反している。
⑫ 半径5km以内に居住する圏域控訴人は、記念塔が景観の一部を形成しているという意味において質的にも量的にも異質であり、具体的利益である。
⑬ 景観法が良好な景観形成に関する責務を国と地方、国民にも課していることは、良好な景観が国民の法律上の利益であることが前提とされている。
⑭ 半径5km以内に居住する住民が北海道記念塔がある良好な景観の中で生活する法律上の利益があることは明白である。
 

【Ⅳ】判決(令和5年9月25日)


① 塔解体は、国民にその事実行為に対する受忍義務を課すものではなく、権力的事実行為にあたるとはいえないから処分性が否定される。
② 控訴人指摘の判例は名宛人に対する処分性が争われた事案で、本件とは事案を異にし、上記判断を左右するものとはいえない。
③ 被控訴人による塔解体について処分性が認められない以上、半径5km以内に居の住控訴人らの主張は採用することができない。
④ 記念塔が「公の施設」であっても、処分性が認められない以上、その余の点について判断するまでもなく本件訴えには理由はない。
⑤ その他の控訴人ら主張のいずれも、当裁判所の上記認定判断を左右するものではない。
⑥ 抗告訴訟を選択した以上、処分性が認められなければ、その余の点について判断するまでもなく、控訴人らの主張は認められない。
 

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