Hokkaido Centennial Memorial Tower Fun

 
設計者・井口健 北海道百年記念塔を語る ⑥

審査と設計

北の大地の交響曲

 

──先生の作品が最優秀に選ばれました。どういうお気持ちでしたか?

僕自身がびっくりしました。全国から名だたる建築家の作品が299点も集まるようなコンペで、北海道の地元の建築家が当選するとは誰も思っていなかったんですよ。 それも誰も知らないような若造が当選したということで、業界関係者みんなびっくりしたと思いますよ。でも一番驚いたのは僕です。
 
久米でも、札幌では僕だけだったけど、東京の本社がこれを取ろうと必死でした。社内コンペを開いて、一番いいもの社長の名前で出すという力の入れようだったんです。
 
嬉しいと言うよりも、大変なことになったなぁと思いましたね。 コンペだけでは終わらない。実際に創らなければならないという責任感がまずきました。 いやーこれから大変だなぁと本当に思いました。
  

設計競技審査発表会で審査結果を発表する佐藤武夫審査員長①


 

──優勝賞金百万円はどうしたんですか?

税金と会社からの請求を支払った後、コンペの協力者たちと分配しました。記念品として塔のミニチュアを作ったら、あっという間になくなりました(笑)
 

北海道百年記念塔設計競技最優秀賞の賞状と副賞


 

──どのようなところが評価されたのでしょうか?

審査過程は知らされていませんから、詳しくはわかりませんが、審査講評で審査員長の佐藤武夫先生から、〝北の大地の交響曲〟という評をいただいたんです。少し紹介します。
 

優秀案を提出した井口氏の設計趣旨に書かれているように、氏の案は問う建設の主旨の精神的つかみ方という点がしっかりしていること。
 
また造形的にいうと、精神性の高い建築は「凍れる音楽」だと言われますが、まさしくこの案の塔は一つの音楽であるとも考えられます。まことに北海道のフロンティア精神を雄大にうたいあげた豪壮な交響楽というような感じも受けます。
 
一見荒々しく、豪放で、『何か黒い鎧をまとった野武士のようだと評した審査員もいます。敷地条件、構造、材料、施工上の整合性やワーカビリティあるということで、最終的にこの案が選ばれました。

  

建築家佐藤武夫氏②
音響学の父と言われる。名古屋生まれ
だが、旭川で中学時代を過ごしたこと
から思い入れが深く、日本建築学会作
品賞受賞を受賞した旭川市総合庁舎な
どで知られる

 

──なるほど〝北の大地の交響曲〟ですか。言い得て妙ですね。審査委員長の佐藤武夫先生は開拓記念館の設計者でもありますね?

 開拓記念館の方が数カ月ですが、ちょっと取りかかりが遅いんですよ。森林公園の中の記念施設地区というのが設けられていて、その設計を高山英華先生が担当していました。森林公園全体は、東大林学部の加藤誠平先生が担当してます。
 
その記念施設地区にはコンペの前から、記念塔と開拓記念館のだいたいの場所が決められていたんですが、佐藤武夫先生は百年記念塔に配慮して、建物の中心軸を塔の方に向け、エントランスから塔が額縁に入って見えるように設計されたんです。
 

高山英華氏③
建築家で東京大学教授。日本建
築学会会長。昭和39年の東京オ
リンピックの施設計画を手がけ
た都市計画の第一人者


  

──コンペで選ばれて設計に移りますが、設計の段階でコンペから変わったもところはありますか?

塔を望む展望台と慰霊のためのマスについてはすでに言いましたね。
今の塔は、鎧のようにコルテン鋼のパネルをボルトで鉄骨に止めているんですが、構造計画ではブロックを積み上げる計画だったんですよ。
 
予算もそうですが、ブロックを積み上げるというのは実際には技術的に難しかったんだと思います。審査している人たちも実際にはこんなのできっこないと思っていたかもしれませんが(笑)
 

──他に設計から変わったところはありますか? 

塔の向きも変えられたんです。当初は、コンペに応募したパースの姿を今のアプローチから見える形にしたかったんです。人の顔もそうですが、正面よりも少し斜めから見た方が良く見えますからね。
 
でも、展望室から札幌市街がよく見えるようにと、事務局から圧力がかかって向きを変えられたんです。私としては一番見てほしくない角度が正面になってしまい非常に残念です。
 
塔が展望台であるということをほとんど考えていませんでした。塔は見るもので、塔から見るものではないと。仕様書に展望施設がましたから、申し訳程度にいれましたが、これも歩いて登れる高さにということで位置を下げられています。ビルの8階ほどの高さに展望室として作られました。エレベーターは当初は解放していましたが、塔の管理専用に置き換えられましたね。
 

 

設計競技提出時の完成パースと現在の記念塔、向きが変わっていることがわかる

 
 
 

 
 
【引用出典】
『北海道百年事業の記録』1969・北海道百年記念施設建設事務所・75p

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